ベトナムはBRICSへの加入を決定せず、慎重な姿勢を維持しています。その背景には、ベトナム独自の外交政策や国際情勢への対応が深く関係しています。本記事では、ベトナムがBRICSへの加入を躊躇している理由を詳しく解説します。
全方位外交と中立政策
ベトナムは伝統的に全方位外交の政策をとっており、どの国や勢力にも偏らない中立的な立場を維持しています。この政策は、冷戦時代の経験や国の歴史から学んだ教訓に基づいています。ベトナムは他国との友好関係を築きつつ、特定のブロックに縛られることなく、自主的な外交を展開しています。
例えば、2023年のデータによると、ベトナムはアメリカ、中国、日本、EUなど多くの国や地域と活発な貿易関係を持っています。アメリカとの貿易総額は約1,170億ドル、中国との貿易総額は2,350億ドルに達しました。これらの関係を壊さないよう、ベトナムは中立政策を維持し続ける必要があります。BRICSに加盟することで、これらの重要な貿易パートナーとの関係に影響を及ぼす可能性があるため、慎重な姿勢を崩していません。
BRICSの現状と課題
BRICSは近年拡大を続けていますが、まだ完璧に強固な組織とは言えません。現在の加盟国はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカですが、それぞれの国の経済規模や成長率、政治的な優先順位には大きな差があります。例えば、ロシアはウクライナ戦争の影響で経済制裁を受けており、中国は経済減速に直面しています。一方、インドやブラジルは比較的安定していますが、それでも加盟国間の協力が十分に機能しているとは言い難い状況です。
さらに、BRICSの意思決定プロセスや統一した経済政策の欠如が課題となっています。これにより、現時点でベトナムが加盟しても、期待されるような経済的な恩恵を得られる可能性は低いと考えられます。例えば、BRICSの貿易総額は世界全体の約16%を占めていますが、この数値は加盟国の地理的広がりを考慮したものです。一方、ASEANの貿易総額は約2.8兆ドルで、世界貿易全体の約7%を占めていますが、ASEANは地域的な統一性と迅速な協力を特徴としています。このため、ASEANの枠組みはベトナムにとって経済的、地理的により直接的な影響をもたらしています。
米国との関係を重視
BRICSは、米国主導の国際秩序に挑戦する勢力としての側面を持っています。そのため、ベトナムがBRICSに加盟すれば、米国との対立が避けられない可能性があります。しかし、ベトナムにとって米国は非常に重要な貿易相手国であり、戦略的パートナーでもあります。
2023年の統計によれば、米国はベトナムの第2位の輸出先であり、主要な投資国でもあります。これらの関係を維持しながら経済成長を続けるためには、米国との関係を悪化させるような行動を避ける必要があります。また、米国だけでなく、日本やEUとの関係も重視しており、これらの国々との多国間協力を優先することで、経済的な利益を最大化する戦略を取っています。
柔軟な関与の姿勢
ベトナムはBRICSに正式加盟せずとも、他の方法でBRICS諸国と取引や協力を行う柔軟な戦略を取ることが可能です。このアプローチにより、特定の陣営に縛られず、自国の利益を最大化することができます。例えば、ベトナムは中国、インド、ロシアなどのBRICS加盟国とすでに個別の貿易協定や投資協力を進めています。
例えば、2022年の貿易データでは、ベトナムと中国の二国間貿易が総額2,350億ドルに達し、ベトナムにとって中国は最大の貿易相手国となっています。また、インドとの貿易額も年々増加しており、約150億ドルに達しています。このように、ベトナムはBRICS加盟国との関係を積極的に構築していますが、正式加盟に伴う制約を受けずに柔軟に動ける点が利点となっています。
地域および国際的な役割
また、ベトナムはASEANという地域的枠組みの一員としての役割も重視しています。ASEANは地域の安定と繁栄を追求するプラットフォームとして機能しており、ベトナムはこの枠組みを通じて国際的な影響力を高めることを目指しています。
ASEANの総GDPは約3.6兆ドルに達し、加盟国間の貿易や投資の拡大が進んでいます。例えば、ASEAN域内の貿易総額は2023年には約2.8兆ドルに達し、加盟国間の経済協力が強化されています。これにより、ASEANは世界貿易の約7%を占める重要な経済圏となっています。ただし、BRICSへの加盟がASEANへの関与やその役割に直接的な影響を与えるわけではありません。両枠組みは異なる目的を持ち、ベトナムにとっては並行して関与できる可能性があります。
ASEANの枠組みを通じて、ベトナムは日本や韓国、中国、EU、米国といった主要経済圏とのパートナーシップを強化し、国際的な経済ネットワークを築いています。BRICSに加盟することでASEAN内でのリーダーシップが弱まるリスクも考慮し、ベトナムは地域内のバランスを維持することを優先しています。
結論
ベトナムがBRICSへの加入を決定せず、様子を見ているのは、全方位外交と中立政策、BRICSの現状、米国との関係、柔軟な関与の可能性、そして地域的な役割を考慮した結果です。この慎重な姿勢は、ベトナムが国益を最優先にし、国際的なバランスを維持しながら発展を目指す賢明な選択であると言えます。
また、BRICSの進展を注視しながら、必要に応じて戦略を調整することで、ベトナムは多国間協力を活用しつつ、独立した外交政策を維持する道を模索しています。